【ジャケットを一着、ゆっくり決めていくということ】


【ジャケットを一着、ゆっくり決めていくということ】
お客様がお持ち込みくださったテーラードジャケット。
今回の仕立ては、この一着をもとに、型紙を起こすところから始まりました。
同じ形をそのまま写すのではなく、ネイビーのポリエステル生地に、グリーンのストライプの裏地を合わせ、そこからまた細かく、細かく、打ち合わせを重ねていきます。
上衿の裏はこのままがいいか。
フラップの裏は変えたほうがすっきりするか。
背中の裏地は、もう少し広げたほうがきれいに見えるか。
身幅はこのままのシャープさを残すか、それとも少しだけ調整するか。
完成のかたちは、最初から一つに決まっているわけではありません。
普段はどんなふうに着たいか、どんな場面で着ることが多いか、そんなことをお聞きしながら、少しずつ方向を定めていきます。
今回、最初は金ボタンも候補に上がっていました。
けれど実際にネイビーの生地に合わせてみると、どうしても軽く見えてしまい、最終的に黒に金縁のエンブレムボタンに変更しました。
同じネイビーでも、素材が変わるだけで、似合うボタンはまったく違います。
その都度、その服にいちばん合う組み合わせを選んでいきます。
ポケットも、実用ではなく飾りとして仕立てることにしました。
使うためではなく、佇まいのためのポケット。
そういう選択もまた、そのお客様の日常の景色を浮かべながら決めていきます。
maison de N では、仕立てそのものは信頼している縫製の方にお願いしています。
事前に型紙を正確に起こし、仕様を細かく共有したうえで縫製に入ります。
仮縫いは行いませんが、その分、事前の擦り合わせはとても丁寧に行います。
一度で仕上げるという意味も、勢いで作るということではなく、完成までの道筋をきちんと整えた上で、縫製に入る、という考え方です。
仕上がった後は、ボタンホールをすべて手仕事で仕上げ、最後にボタンを付けて、ようやく完成となります。
正直なところ、時間はかかります。
効率だけを考えれば、もっと早い方法もあります。
それでも、何となく決めるのではなく、納得しながら決めていく。
その積み重ねが、結果として長く着られる一着につながっていくと考えています。
完成したジャケットは、ただ形だけを写した服ではなく、選び方や迷った時間も含めた、その方の一着になります。
これが、maison de N のセミオーダーの進め方です。




