【偶然が、完成度になる日】

【偶然が、完成度になる日】

この日ご来店くださった装いが、とても印象的でした。

maison deNでお仕立てしたバイカラーのワンピース。

ベースはイエロー、裾にラベンダーを重ねた配色は、華やかさの中に落ち着きがあり、色そのものが主張しすぎないバランスを持っています。

そこに合わせられていたのが、柔らかなプリントのコートでした。

グリーンを含んだニュアンスカラーの中に、ふと目を凝らすと、ワンピースの裾に使われているラベンダーと呼応する色が溶け込んでいる。

その偶然の重なりが、全体の完成度をぐっと引き上げていました。

計算して合わせたようでいて、どこか自然。

それが、このコーディネートの一番の魅力だったと思います。

色を多く使っているのに、うるさくならないのは、それぞれの色が「主役」になろうとしていないから。

イエローは光を集め、ラベンダーは足元に余韻を残し、プリントのコートは全体を包み込む背景になる。

役割が分かれていることで、装いに流れが生まれています。

小物の選び方も、とても巧みでした。

バッグや足元は色を抑え、質感で存在感を出すことで、色の重なりを邪魔しない。

結果として、視線は自然と縦に流れ、全体がすっきりとまとまります。

派手にまとめるのではなく、印象を整える。

その大人らしさが、この装いにはありました。

こうしたコーディネートは、偶然のようでいて、実は日頃からご自身の好きな色や質感を理解しているからこそ起きる重なり。

だから無理がなく、見ていて心地いい。

ファッションは、正解を当てにいくものではなく、感覚の積み重ねだと思います。

今日選んだ一着と、たまたま手に取ったコートが、思いがけず響き合う。

そんな瞬間があるから、装うことは楽しい。

この日の装いは、そのことをとても美しく教えてくれました。